いつか君に ― 9 ― ユキは汗を流しにバスルームに消えた。ユキが戻るころには、その他の面々も昼ごはんに合わせて起きていた。 ツバサとリョウの姿はなかった。 「ツバサとリョウは?」 ダイニングテーブルで食事をしていたコウタとキョウスケとトシヤに聞いた。 「具合悪いみたい」 トシヤがそれに答えた。 「ユキ、はいこれ」 ユキが来たことに気がついた真奈美は、ユキのためにあらかじめ用意していたサンドイッチとサラダが乗ったプレートをユキの前に差し出し そこに座るよう促した。 「ありがと」 ユキは微笑み、それを受け取ると空いている席に着いた。 ユキに用意されていた食事は他の皆とは違うものであった。しかしそれに特別な意味などなく、「軽くでいい」 と言ったユキの意見を尊重したものであった。 だが、そのものを見て黙っていないのが一名・・・。 「朝は雅さんだけ特別で、昼はユキのが特別なのはど〜ゆ〜こと?」 先ほどまで、真奈美の作った料理をわき目も振らず食べていたトシヤが、不機嫌なオーラを一身に醸し出し尋ねた。 真奈美が何か言おうとしたその時、インターフォンがなる。 「ん〜もう、なにすねてんの・・・。」 それだけ言い残して真奈美は玄関に向かった。 客と思しき人を伴い真奈美が連れてきた相手を見てリビングに居た男たちの動きが一旦止まった。 「「「「・・・・・・。」」」」 その顔を見て真奈美は、やっぱり・・・という気持ちになった。 「その様子なら、どういうことかわかると思うけど・・・、順番に診察受けなさい。」 真奈美のはっきりとした声が部屋に響いた。 客というのは40〜50歳くらいの男で、医師である。午前中に真奈美が電話をかけ、お昼に往診を頼んでいたのだ。 「まさか安西先生が来るとは・・・。」 ユキは少しバツが悪そうに安西に問いかけた。 「おう、あいつから昼休みにここに来るように言われたんだよ。でもお前らが居たのには驚いた。 どうなってんだ。」 なにがなんだかわからない、そんな表情の安西は部屋を見回していた。 そんな、安西の問いに答えたのは真奈美だった。 「雅人が連れてきたの・・・。皆風邪だって言うんだけど、今の時期インフルエンザかもしれないし、肺炎になられても困るし! かと言って、病院に行く気は無いっていうもんだから、困ってたけど、ユキもトシヤもホストだっていうじゃない? だったら、タロちゃんがいいかなと思って。それにしても、コウとキョウスケもタロちゃんを知ってるみたいだし・・・。どういうこと?」 真奈美がタロちゃんというのは、他ならぬ「安西 朔太郎」のことである。安西は歌舞伎町に縁のある人であれば大概が知っている医師である。 そして今は、2月。 ユキとトシヤがホストである聞いていたので、安西のことをしっているだろうという真奈美の判断で、 安西に往診を頼んだのだ。だが、キョウスケとコウタが、どうした安西を知っているのかが不思議だった。 真奈美の問いに答えたのはコウタだった。 「俺、たまにホストのバイトしてるから・・・。」 コウタに続き、キョウスケも口を開いた。 「俺は、キャバクラ嬢のヘアメイクにもいくし・・・。」 雅人の知り合いという時点で、何かしら歌舞伎町と言う町に関わっている人であるというのは 真奈美にも予想は出来た。 そう・・・雅人は歌舞伎町にある「crown」の元NO.1ホストであったのだ。 4人は順番に安西の診察を受けた。 そして、まだ横になっている二人の元へ真奈美と向かった。 リョウもツバサも真奈美と一緒にいる男”安西”をみて驚いていたようだ。 つまり、彼らも歌舞伎町という夜の町に何らかの関わりを持っているということ・・・。 診察が終わった安西は、診察の為あわてて帰っていった。 帰り間際、真奈美に「よくこの家に男を上げるのを雅が許したなぁ〜。」と 言い残した。 安西の診察結果ではインフルエンザも肺炎も心配要らないとのことで、 栄養のあるものを食べて、よく休むようにとのことであった。 取りあえず、大事に至らないようであったので真奈美はホッとした。 リョウとツバサもリビングに現れ、昼食を食べだした。他のメンバーはリビングで寛いでいた。 そして、しばらくは安西の話で盛り上がっていたが、ふとしたきっかけで、 ユキの昼ごはんの話になった。 ユキだけが違うものが出された事に関してはユキが皆に説明し、事なきを得た。 だが、トシヤが何かを思い出したように、急に変なことをいいだした。 「なぁ、雅さんとどういう関係?」 周りは一斉に真奈美を見た。 聞かれているのが自分だとわかると、真奈美はサラッと答えた。 「友達。」 「セフレ?」 ・・・・・・・・・・・。周りの皆も息を飲んで真奈美の返事を待っている。 「・・・・・・・・はぁ?。何で?友達って言ってるジャン。」 「いや、だって、一緒に住んでるんだろ?」 「住んでるけど、友達だもん。」 「じゃぁ、今朝のはマジ?」 「???今朝のって?」 真奈美はトシヤが何のことを言っているのか理解できなかった。 「だから・・・シャブてるかどうか・・・・・・」 トシヤはそういい終わると、真奈美のほうをチラッと除き見た。 他の男たちは唖然とした表情でトシヤを見て、真奈美に眼を向けた。 大注目の中真奈美から発せられた言葉は一言であった。 「変態。」 |