いつか君に

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真奈美はコウタの元へ行くが、コウタはスヤスヤと寝ていた。

具合が悪かったのか、元々寝付きがいいのか判らなかったが、寝顔自体に苦しさは感じられず取りあえずは安心してその場を離れることにした。



和室に眠る四人・・・。後はリビングの一角に眠る二人。



リビングとはいえ、畳のフロアマットを敷く事により和室となんら変わりは無かった。

まして間仕切りで仕切られている為、簡易とはいえ立派な一室になっている。

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5人目の男、キョウスケの元を尋ねえた。

キョウスケは7人の男たちの中で一番背が低い。髪の毛は明るさを抑えた茶色だ。

「キョウ、具合どう?」

真奈美に気がついたキョウスケは、体を起こして薬と水を受け取るとそれらを飲み込んだ。

「う〜〜んやっぱダルイな・・・・・。」

「今日は予定とかある?何かしてほしいことあったら言ってね。」

「あ〜仕事は3時から入ってたな・・・」

「そっか。昼食は食べる?」

「オネガイシマス!」

「カシコマリマシタ。じゃぁお昼に起こすね。」

そう言って、真奈美が去ろうとしたとき、キョウスケが口を開いた。

「俺が何の仕事してるか知ってる?」

キョウスケの突然の問いだったが、どういった意味が込められているのか真奈美にはわからなかった。

「何も聞いてないし、わかんないよ。無理に聞き出そうとは思わないから。」

キョウスケの問いに真奈美は素直に答えた。

キョウスケは布団に体を倒し右手で顔を覆うようにしてつぶやくように言った。

「美容師だよ・・・」

その言葉はとても小さかったが、真奈美の耳にはしっかりと届いた。

「そうなんだ。それじゃオヤスミ」

キョウスケがそれ以上言葉を発するように見えなかった為、真奈美はそっとその場を後にした。

キョウスケは先ほどよりもより一層小さな声で独り言のように何かを呟いたが真奈美の耳には届かなかった。

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いよいよ最後になってしまったが、昨夜一番最初の訪問者リョウの元に真奈美は向かった。

リョウは彼らの中でもっとも背が高い。そして唯一の黒髪である。

黒髪のさらさらの髪や整った顔立ちは昨夜と変わることは無かった。

先ほどの朝食のときに一番会話が少なかったのがリョウであった。

「具合どう?」

眼を閉じ横になっているリョウにそっと声をかけた。

「・・・・」

そっと眼を見開いたリョウであったが、真奈美の問いに答え無かった。

「薬のんで」

真奈美はそう言って薬と水を渡す。

リョウは無言のままそれを受け取ると、それを飲み乾した。

「お昼になったら声かけるね・・・・。」

真奈美はそう言い、リョウからコップを受け取ろうと手を伸ばした。

その時、真奈美の腕はリョウに掴まれ引き寄せられる形となった。リョウに引き寄せられたとき、 リョウの唇が真奈美のそれに掠めるようにそっと触れた。

・・・・・・・・・・・・・・・。



       なに!?・・・・・・・・・・・・・?

コップはいつの間にやら真奈美の手の上にあり、リョウは何事もなかったように布団の中で寝入っている。

「・・・・・・・・・なっ・・・・。」

何かを言おうとした真奈美であったが、あまりにも一瞬すっぎて現実かどうかの判断が出来ず呆然としていた。

 はぁ〜〜、もしかしてリョウってばまた寝ぼけてたのね・・・。

昨夜もリョウに不意にキスされていたことを思い出して、また誰かと勘違いされたのだと真奈美は思っていた。

「勘違いか・・・・」

真奈美は不意にそんなことを口走っていたが、眠ってしまったリョウは返事を返すことは無かった。

なるべく音を立てないようにそっとその場を後にした。





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それからの真奈美は大変だった。

何せ男6人分の昼食準備・・・。なにを食べさせていいかわからなかった。

そんなときに真奈美の携帯に着信があった。

相手は友人の薫、今日会う約束をしていたのだ。

しかし、いまこのマンションに居る6人が風邪を引いていて放っておく気にはなれず薫には 急用で行けなくなったと断った。

薫とは古くからの付き合いであるが、真奈美が雅人と暮らしていることは言っていない。

ましてや、今6人もの男と看病の為とはいえ一緒に住むと知ったらただじゃ済まないだろう・・・・。

「・・・・・・・・・はぁ〜〜・・・・」

真奈美の口から不意にため息が漏れた。

本来なら薫と遊んでいたはずが、どうしてこんなことになったんだろう・・・。

そうは思っても、次の瞬間にはしっかりと頭を切り替えて、昼食の下ごしらえに取り掛かった。

病人とはいえ思っていた以上に食欲のある6人・・・。その量は半端ではない。

しかも、家事を出来る人間が自分しか居ないと判っているだけに、頑張るしかなかったのだ。



そしてもう一つ気がかりなこと・・・。

「・・あ、もしもし、坂本ですが・・・。」

真奈美はどこかに電話をかけると、そのほかの雑用を手早く終わらせた。



気がつくと、ユキに起こしてほしいと頼まれている時間が迫っていた。

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