いつか君に

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賑やかな昼食は「変態」という真奈美の一言により幕を閉じた。

ユキを待ち合わせの場所に真奈美が送ることになり、ついでと言わんばかりに他の面々からも用事を頼まれた。



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真奈美は駐車場にとめてある車を見て思わずため息をついた。

はぁ〜よりによってもこの車か・・・。

真奈美のため息に気がついたユキは真奈美の顔を覗き込むようにして声をかけた。

「どうかした?」

その声に真奈美はユキの方へと振り返る。

「かっこいいね・・・。」

真奈美の口から出てきたのはなんとも会話にかみ合わない台詞であった。

それもその筈、これからユキは仕事、つまり主張ホストとして女性とデートをするのだ・・・。 整えられた髪や品のよい服装、わずかに香る香水・・・。そして何より、フェロモンというフェロモンがそこらかしこに溢れているのだ。

ホストよりモデルのほうが良いと思うんだけどなぁ・・・。

真奈美のなんとも微妙な一言にユキは微笑み「ありがとう」とだけ言った。

ユキの微笑を見た真奈美は、先ほどの憂鬱な気分を忘れそうになったが、すぐに現実に引き戻された。

そう、真奈美の目の前にある車は、まさしく雅人の物であるが、明らかに高級車なのである。そして左ハンドル・・・。

都内の移動時に自ら車を運転することが殆ど無い真奈美にとっては、車はそれほど必需品ではない。 その為、どうしても必要なときは、雅人に借りたりもしている。無論車のキーは渡されているのでいつでも乗ることは可能なのだ。

雅人と暮らしているこのマンションに常時車が2台はあるのだ。ここに置かれている車は雅人の気分でコロコロと変わるが、 真奈美自体車を運転することが殆ど無い為、特に気にしたことは無かった。

雅人の所有する車が何台有り、どういう車種であるのかさえ知らない。


ただでさえ都会で混雑した街中を左ハンドルはキツイなぁ〜。

そんなことを思いながらも、ユキを助手席に乗せ車は走り出した。



ユキが待ち合わせしているところは、マンションから車で10分そこらの場所であった。

ユキの待ち合わせの相手”お客さん”から連絡があったのは、もうすぐ待ち合わせの場所に着くという時であった。

どうやら、お客さんが30分くらい遅れるとのことであった。待ち合わせに余裕を見ての到着であった為、大分時間が出来てしまったようだ。

待ち合わせの時間まで、と言うことで、二人はカフェに入り時間を潰すことにした。



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カフェはケーキがおいしいと評判の店であり、真奈美も雑誌で見たことのあるお店であった。

店にユキのエスコートで入ると、周りの視線が二人、正確にはユキに向いた。

ユキは黙ってても絵になるもんな〜。注目されてるな・・・。

そんな視線に気がついた二人であったが、どちらとも我関せず!といった雰囲気であった。

「なににする?」

周りを気にすることなくユキが真奈美に尋ねる。

「何にしよう・・・。ユキは?」

ケーキは美味しそうだけど、今度薫と来よう!

おいしそうなケーキに思わず目移りしそうになるが、それほど時間があるわけでもないため飲み物のところを見ながら真奈美は答えた。

「俺はコーヒーで・・。」

「私もコーヒーにしよう」

「ケーキは?」

「え?」

「さっきこの店はケーキを食べてみたいって言ってたから・・・。」

「あ〜うん、そうだけど、今度友達と来ようかなって。」

「友達ね・・・。友達って雅さんとか?」

「・・・え?違うけど」

「折角だし、なんか食べたら?種類だって結構あるし、友達と来た時は違うの食べたら良いだろうし・・・。」

「う〜んでも時間もそんなに無いしね」

「そんなの気にしなくていいのに」

真奈美には一瞬ユキが寂しそうな表情をしたように見えた。

もしかして、ユキもケーキ食べたいのかな?

「ユキもケーキ食べるならいいよ」

「・・・はぁ?」

キョトンとした顔をしたユキであったが、次の瞬間には笑い出した。

「あははー。そうくるとは思わなかった。じゃぁ、どれにする?」

ユキもケーキが食べたかった訳じゃないのかなぁ・・・。

でも、楽しそうにしてるしいっか。

ユキと真奈美は二人でケーキを決めコーヒーとともに注文した。

ケーキとコーヒーは程なくして運ばれてきた。

ケーキは真奈美が苺の乗ったケーキで、ユキのはガトーショコラである。

ケーキは真奈美が好きなものを2種類オーダーしたのだ。

「ガトーショコラのほうが好きなんじゃないの?」

ユキは目の前に置かれたケーキを見て、真奈美に問いかけた。

「・・う〜ん、でもさぁ、この苺のケーキがユキの目の前にあると、イメージがさぁ・・・。」

真奈美はそういうと、「いただきます」とケーキを食べだした。

「あ!!もしかして、苺が食べたいとか?」

思いもかけない真奈美の一言にユキは苦笑いをした。そして、おもむろに自分の前に置かれたケーキを一口大にしたものを真奈美の前に差し出しながら言った。

「はい。」

・・・・・・・・・・・・・・。えっと、これは俗に言う「あ〜ん」と言う行為でしょうか・・・。

唯でさえ注目を浴びている中、この行為はかなり恥ずかしい!!!みんな見てるもん。

ケーキを前におたおたしている真奈美を見てユキは面白そうにいている。

「はい、あ〜ん」

困っている真奈美に拍車をかける。

これ以上の注目を浴びたくない真奈美は、思い切ってケーキにかぶり付いた。

ユキは面白そうに真奈美にケーキを食べさせ続け、結局ユキの分のケーキは殆ど真奈美が食べたのであった。

く〜〜なんだか悔しい!!そうだ!

真奈美は先ほどのユキのように自分の前に置かれて殆ど手を付けられていないケーキを一口大にし、ユキの目の前に出した。

「はい。」

ユキは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに目の前のケーキを口に含んだ。

「あまっ。」

ユキがあまりにも素直にケーキを食べたことに真奈美は驚いていた。

さ、流石ホスト!!普通こんなサラッと出来ないだろー。


二人の話題は必然的に他の男たちのことであった。

一緒に暮らす上で、素性もわからない奴が相手では何だからと、一通りのことを教えてもらった。

リョウは舞台を中心に役者をやっていること、ツバサは高校生でコウタは大学生、 キョウスケは美容師そしてトシヤは「crown」の現NO.1ホストであること・・・。

それぞれがどういった経緯で雅人と知り合ったのかは判らないという。

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