いつか君に

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それにしても、何でこんなことになってるんだろう・・・。

真奈美たち7人がグラスを手にここ「bubble(バブル)」の一角で飲み始めて数分後・・・。 店内にいた女性客が途切れることなく、声をかけてくるのだ。

それにつられて、だんだんと男たちの機嫌が悪くなるのが真奈美には分っていた。しかし、女たちはいわゆる「逆ナン」らしく、真奈美には目もくれず好みの男に声をかけているのだ。

本来ホストをしていて女の扱いになれているであろうトシヤまでもが不機嫌なオーラを全身から醸し出していた。

会話をしようとすれば女たちが絡んでくる・・・。必然的に場の空気は悪くなる一方であった。



何とかしないと・・・、さっきから声をかけてくる女の人たちはこの男たちが気に入っているようだし、しかも私のことは眼中に無いって顔に書いてあるし・・・。 しょうがない、ここは一つ!!。

真奈美は周りの男たちをさっと見回して、声をかけてきた女たちが途切れるのを待ってから口を開いた。



「あの、今日は楽しかったし、当初の予定通り皆のこともいろいろ知れたし・・・。えっと、では、あの、私帰りますから、皆さんはごゆっくり。」

真奈美は素早くその場に立ち男たちに向かって頭を下げた。

みんなは自分たちの事を知って貰う為に今日の事を計画したって言ってたからもういいよね!?まだみんな、特にトシヤの体調が気になるところだけど、 さっきからいろんな女の人に声かけられてて、そこに好み人がいたりしたら私が邪魔になるもんね。ここは、帰ろう!!

真奈美は呆然とする男たちを気にも留めない様子で、席を離れようとした。





「「「ちょっとまてよ」」」





男たちの怒りを含んだような声が真奈美の耳に届いた。

真奈美は一瞬怯み男たちを見るが、6人とも先ほどよりもより一層怒りがあふれているのが見て取れた。

私何かまずいことでも言ったかな??あっ!ここの支払いかな?

「そ、そんな怒らなくても・・・。会計は済ませて帰るし・・・ね?」

「「「「「「・・・」」」」」」

真奈美の一言で男たちは声を失ったが、互いに目配せをすると男たちはため息とともに席を立った。

手際よく会計を済ませている男たちを見て真奈美は呆然としていた。

店にいた女性客も自分が狙っていた男たちが早々に引き上げていくさまに驚きを隠せなかった。



呆然としている真奈美をコウタがエスコートして店の外へ出た。店内からは女たちの声が聞こえてくるが 誰一人相手にしようとせず、まとわり付いてくる女たちを鬱陶しそうにしつつ外に出た。


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「本当に良かったの??」

真奈美はコウタに尋ねた。真奈美の腕とコウタのそれはしっかりと絡まっていた。

真奈美はコウタにいつでも掴まっていいと言われていたので、コウタに自ら腕を絡めたのだ。真奈美にとってはほぼ無意識にしたことではあるが。

必然的に二人の距離は近くなり、傍から見るとカップルともとれる様子だ。

「真奈美は気にしなくてもいいよ。・・・それより今日は楽しかった?」

コウタは真奈美に目をやりながら答えた。

「うん。楽しかったよ。コウタには一番いろいろして貰ったね〜ありがとう。服も大切にするね。」

真奈美が満面の笑みでコウタを見上げた。

「そう・・・なら良かった。」

真奈美の笑みを受けてコウタも微笑んだ。

「そこでイチつくな。」

真奈美が後ろを振り向くと、不機嫌なままの5人の男たちがいた。

「腕組むな〜〜。」

「離れろ。」

そんな声が飛び交ってきた。そこで初めて真奈美はコウタの腕に絡まっていた事に気が付いた。

ハズカシ〜〜。無意識のうちにコウタにべったりしてた訳!?真奈美は顔を真っ赤にさせコウタを見上げた。

「ご、ごめんね。」

真奈美はそう言ってコウタの腕から手を離そうとした。

「このままでいいよ。暖かいし」

季節は2月まだまだ寒い。真奈美はコウタの言葉に甘えてそのままでいた。

結局、タクシーを拾って皆でマンションに帰ることになったが、なんせ7人だ。どう考えても2台のタクシーになる。

そのタクシー決めで一騒動あったのはまた別の話。

********************


雅人のマンションへ7人で帰ると、部屋は暗いままであった。

真奈美は部屋に入るなり、お風呂を沸かした。

それぞれからタバコや香水お酒のにおいがしていてそれに耐えられなかった。幸いなことにこの部屋にはバスルームが2つある。2つといっても1つがものすごく小さい。 普段は使用しないバスルームだが、人数が多い為使用することにした。

リビングで6人が寛いでいたが、真奈美はそれに構わずタオルなどを準備した。 お風呂の準備が出来リビングのみんなの元へ向かうと、トシヤの顔色が気になった。

真奈美はトシヤの顔を覗き込み、その頬にそっと触れた。

「ちょっと!!かなり熱いじゃない!!」

つらさは一切見せないトシヤであったが、熱があるのは事実であった。

「大丈夫だって」

トシヤはそういうと真奈美の頭にポンポンと優しく手をのせた。そして何事も無いようにバスルームに向かった。

あんなに熱が高かったらお風呂どころじゃないのに!!

「ちょっとまってよーーー。」

真奈美がトシヤを追いかけてバスルームに行くが相手にされなかった。

他の面々もトシヤ程ではなかったが体調が悪そうであった。また機嫌も悪いようであった。 6人は順に風呂を済ませると殆ど会話も無いまま眠りについた。


本当は体調が良くないのに、皆の職場とかを見せたりとか私に気を使ってたもんなぁ・・・。 おかげで6人のいろんなところを知ることが出来たけど、早く良くなって貰わないとね。


真奈美は6人の体調を心配し、それぞれの眠る所へと向かった。
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