いつか君に

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「・・・ったく、おせーんだよ。」

真奈美は背後から少しイラついた声を掛けられ振り向いた。

「あれ?キョウスケ!!どうしたの?偶然?」

真奈美は突然現れたキョウスケに驚きの声を上げるが、コウタは驚いた様子なく淡々と告げる。

「偶然じゃないよ。この店に来たのも、ここにキョウスケが来たのも・・・。社会見学って言ったでしょうが。」

「へ??どういうこと」

偶然じゃないって事は、あらかじめ決めてたって事だよね・・・。でもどうして??

真奈美はたくさんの疑問を抱えたが、それに気に留めることも無くキョウスケが話し出した。

「おい、このカクテル飲んでんの?・・・なんで?まさかコウタが選んだとか?」

話が突然カクテルのほうに向き、真奈美は一瞬固まってしまったがコウタが答えた。

「・・・残念なことに、お勧めで頼んだらあのバーテンさんが用意してくれたんだよ。」

コウタがそう答えながらリョウのほうをチラッと見た。

「このカクテルがどうかしたの?美味しいよ?」

二人がどうしてカクテル一つで面白くなさそうに言い合いをしているのか、真奈美は判らなかった。

「そのカクテルの名前知ってんの?」

グラスを傾け楽しそうに微笑んでいる真奈美にキョウスケは聞いた。

「ん〜〜そういえば知らないけど・・。おいしいよ。それにさ・・・リョウがシェーカー振ってるのなんて絵になるよね。」

「ふ〜んそう、女はあーゆー男が好きなんだよね。整った顔に高い背・・・理想的なんじゃない?」

キョウスケは半ば投げやりな言い方をした。コウタもそれに同調するように相槌を打つ。

「はぁ?何言ってんのよ。二人だって一般人からかけ離れたくらい整った顔してんじゃん。さっきから女の人の視線痛いほど感じるんだけど・・・。も〜自分が分ってないな。さっきキョウスケが言った台詞はそのまま二人に当てはまると思うけど?」

「じゃぁ真奈美はどうなの?」

コウタがすかさず真奈美に問う

「何が?」

「だから、リョウとか・・・・・・」

「う〜ん、確かに綺麗な顔だと思うよ。ちがう?」

「いや、違うく無いけど・・・そうじゃなくて好きになるかどうか。」

「はい・・・??なに言い出すの〜〜あははっ。顔だけで人を好きになるほど子供じゃありませんから。」

真奈美はそういうと、カクテルを飲み干した。

「じゃあ、何が必要?」

真奈美をまっすぐに捕らえてキョウスケが問う。真奈美は少しの間を置き、何かを思い出すようなそんな雰囲気の中告げた。

「・・・・・なんだろうね。キョウスケとコウタは何が必要なの?」

「「・・・・・」」

二人は顔を見合わせ、何も言わなかった。

「も〜無言?意地悪ー。次は何飲もうっかな・・・。」

「・・・おいちょっと待って、次行かなきゃなんないから行くぞ。」

キョウスケは何かを思い出したかのように、真奈美の手からメニューを奪い、一言二言コウタと離してから真奈美を店から連れ出した。コウタを店に残す形となってしまったが、キョウスケはわき目も振らず歩き出した。



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「で・・・・なんで、ここに入らなきゃなんないの?それにコウタ置いてきちゃってどうすんの!!」

今真奈美が位置しているのは、「crown」と言うホストクラブの前なのである。

キョウスケは強引にここまで連れてきたのだ。

「いいから、行くぞ。」

「本当にヤダってば。」

「入らないと、トシヤに会えないだろ??」

「別にいいよ〜。」

ホストクラブなんて入れるか!!そんなお金はないし・・・絶対ヤダ〜〜。

真奈美はホストクラブと言うものに、嫌悪感を抱いている。

「別に知らないとこじゃないだろ?雅人もここで働いてたんだろ?」

「それは知ってるけど、こーゆー所苦手なの!!」

「苦手って・・・じゃあどうやって雅人と知り合ったんだよ??」

「どうって・・・。普通に・・・。」

「普通ってなんだよ・・・」

キョウスケは信じられたいと言った表情で真奈美に問いただそうとするが、 なにせ店のすぐ側で立ち止まったままである為かなり人目についた。 そのため、これ以上この場に居ることが出来ない為、裏へと回った。


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真奈美とキョウスケは裏口からホストクラブに入った。キョウスケはこの店でそれなりの地位に居るであろう人物に挨拶に行った。

「ねぇ勝手に入っていいわけ?」

真奈美は小さな声でキョウスケに聞いた。

「あ〜ここの連中のカット担当してるし、俺もたまにバイト頼まれたりしてるから殆どの奴らが知り合いだしな。さっきカイさんに挨拶したし・・・。」

「へ〜キョウスケも顔が広いんだね・・・。カイさんって??」

「簡単に言うと一番偉い人かな・・。」

「そうなんだ」

それにしても、タバコくさいし、酒臭いし、うるさ〜い。

真奈美はいかにも疲れた顔をしていた。恭介は真奈美の頭にポンっと手を置くと「もう少し待って」 とだけ言った。



その後、トシヤがホストらしくフェロモンを存分に醸し出しながら、真奈美とキョウスケの居るスタッフルームにやってきた。

「おーーーどうしてこんなとこにいんだよ?」

「コイツが嫌がるから、裏から来た。」

キョウスケは裏から入った理由を簡単にトシヤに説明していたが、その間真奈美は一言も発せずトシヤの顔を見ていた。

・・・・・トシヤ顔色悪い。これって絶対お酒のせいじゃなくて、まだ熱があるんだ・・・。声にもハリが無いし。

真奈美は二人が話しているのを気にも留めず、トシヤに話しかけた。

「まだ熱あるんじゃない?」

真奈美はそういうのとほぼ同時にトシヤのおでこに手を伸ばした。

「・・・熱いじゃない。まったく・・・今日くらい休めなかったわけ?今に倒れるわよ!!」

真奈美はトシヤに答える隙を与えないほどまくし立てた。

「折角の金曜に休めるか、これくらいならイケる。」

「これくらいって・・・本当に分って言ってるの?」

も〜分からず屋なんだから!!

真奈美がそう思っているときにスタッフルームのドアが開き、一人の男性が声をかけてきた。

「トシヤ、そろそろ出てくれ。指名入ってるぞ。」

・・・・・・・・・・・

「・・・・・海田さん?」

真奈美はその男性を見て呟いた。

「お〜〜カナちゃん久しぶり〜〜〜。」

入ってきた男性(海田)は真奈美に気がつき近づき声をかけた。もうすぐ抱擁でもしそうな勢いであったが、キョウスケと トシヤの素早い動きで阻まれた。

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