いつか君に

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・・・ちょっと待てよ。コウタは風邪で寝込んでたんだから、早く帰って休んだほうがいいのに。社会見学っていったいなんなの?

「ねぇ、社会見学なんていいからさ、早く帰って休んだほうがよくない?」

真奈美はコウタの腕を少し引き寄せ尋ねた。

「休みたいのは山々なんだけどね・・・。」

コウタの答えはとても小さかった為夜の喧騒にまぎれて真奈美の耳には届かなかった。

「なに?」

真奈美は改めて聞いたが、コウタが答えるより先に、真奈美の携帯電話が鳴り出るように促されてしまった。 真奈美は小さく「ごめんね」と言ってから電話に出た。

電話の相手は雅人で今晩いつ帰れるのか判らないとの事であった。話を手短に切り上げコウタのほうを見ると、コウタも携帯電話を片手になにやら見ているようであった。

メールとかかな?・・・それにしても携帯使ってるところはじめて見るかも。

真奈美はコウタの用が終わるまで大人しく待とうと思っていたが、携帯を手にしたコウタは真奈美に問いかけてきた。

「番号とか聞いてもいい?」

「へ??」

「ケータイの。ダメ?」

真奈美は7人の男たちの中で雅人にしか携帯の番号を教えていなかったのだ。聞かれることも無ければ聞くことも無い・・・。そういう状態だったのだ。

「うん、別にいいけど。」

そういうと、真奈美はコウタと番号とアドレスの交換をした。

交換が終わると、コウタの腕に真奈美が掴まって・・・傍から見ると明らかに女が男に寄り添うカップルのような感じで二人は歩き出した。

体に障るといけないから帰ろうという真奈美の申し出を、コウタは断り目的の場所まで歩いていった。


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「ここ?」

真奈美がコウタに連れてこられてのは、「bubble(バブル)」というカジュアルなバーであった。

コウタにエスコートされカウンターンに腰を下ろしメニューを見ているた。

「何にする?」

「う〜ん・・・何がいいかなぁ」

真奈美はお酒が苦手ではない、しかし何を飲もうか決めかねていた。

「決められないなら、お任せで作って貰ったらいいんじゃない?」

「へ?」

コウタの提案に一理あるものの、突然の提案に驚き目をパチパチさせた。

そーゆーのもありだよね・・・。

「うん、じゃぁそうしようかな。」

コウタはそれを聞きメニューを告げようとした。そしてそこに現れたバーテンダーに真奈美は目を白黒させ驚いた。





「なんで?ここにいるのーーーー。」





あまりに予想外の人物に真奈美は驚きが隠せなかった。






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「お待たせしました」

コウタと真奈美にそれぞれカクテルが出され、バーテンダーはカウンターに居るほかの客のカクテルを作る為真奈美たちの前から居なくなった。

全体的に女性客の多いこの店は、店員の殆どが美形であるのだ。中でも、もっとも女性客の人気を集めているのは他でもない、先ほど真奈美たちにカクテルを作ったリョウである。

リョウは、女性客相手に接客していても媚を売るようなタイプではないがその丹精なマスクと身のこなし、そしてカクテル作りの上手さで人気を得ていたのだ。



「何で、リョウがここに居るの?」

突然のリョウの登場で呆然としていた真奈美であったが、はっと我に返って隣にいるコウタに尋ねたのだ。

「・・・何でって、ここがリョウの職場だし。」

「だって、リョウは俳優って・・・え?あれって嘘?」

「あ〜そのこと・・・。それも本当。まぁどこまで知ってるか判らないけど、それも本当だし、こっちも本当。」

「え、だって・・・。あ〜よくわからない。」

「ん〜まぁ、俺も他の奴らのことは全部が全部知ってるわけじゃないからね・・・。」

「そうなんだ・・・。ねぇコウタたちってどういう知り合いなの?」

「知り合いってほどお互いがお互いを知らないと思うよ・・・。ほぼ初対面に近いような、それでいて親近感はあるような、そんな感じかな。」

「・・・なんていうかかなり、驚きなんだけど。」

普通そんなに知りもしない人たちと一緒にいるのかなぁ・・・。

「まぁ、いろいろと事情があったんだって。」

「そっか・・・。」

コウタの何か言いたげな雰囲気に気がつき、真奈美はそれ以上の追及をするのはやめた。

その後、真奈美はコウタと会話をしながらチラチラとリョウに目をやったが、リョウは淡々と仕事をこなしていた。



「もうすぐか・・・。」

コウタが寂しげに言葉を発した。

「もうすぐって?」

「もうすぐデートはお終い。・・・楽しかった?」

そろそろ帰ろうって事かな。結構いい時間だしね。

「うん。とっても楽しかった。ありがとうね。・・・それにこの服本当にいいの?今更だけど。」

「楽しんでもらえて良かった。服はそんなにいいものじゃないけど、気に入ったら着てやって。今更返されてもね。」

「・・う〜ん、とっても気に入ってます。じゃぁお言葉に甘えて・・・。」

そんなにいいものじゃないって・・・そんなわけ無いよ〜。あの店のものどれもかなり高そうだったもん。実際に値段とかは見れなかったけど・・・。

「ほら来た・・・」

コウタがため息交じりで、呟いた。

すると又もや意外な人物が現れた。

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