いつか君に

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「お疲れ様です。」


「おはようございます。」



予定時間ギリギリに現れた私に皆いつものように挨拶をしてくれる。



「おはようございます。」


一人一人の顔を見ながら挨拶をして室内にはいる。

何度来てもなれることが無い・・・。





********************



「じゃあ、今度の企画はこれで決定で・・・。あとはいろいろと時期を見て決めるということで。」


「はい。分りました。」



笑顔とともに微笑み返し頷く。


やっっっっっっと終わった・・・・・・・・・・。



今朝まですっかり忘れていた用事。



それが今私の身に起こっている事である。



都内の某所にある、とある芸能プロダクション・・・。


ここに所属するミュージシャンの新曲発売が今企画されている。


その話し合いが今までされていたのだ。


とはいえ、大物である為、企画は決まりで間違いが無い。

今日はプロモーションビデオの撮影やその他諸々の事に関しての打ち合わせだ。

当のミュージシャンは関与していない為、今この場にいない。



なぜこの場に私が居るかと言えば・・・。



「じゃぁ名倉先生によろしく伝えて。」



「はい。分りました。お疲れ様です」



ミーティングルームから出ようとしたところ、プロデューサーから声を掛けられ、笑顔で言葉を返した。



名倉先生といわれた人物は、名倉良二のことである。



職業はカメラマン。主な被写体は風景画で、人を撮影することは殆ど無い。


名倉良二の父親もまたカメラマンであり、自然を愛していた。


名倉良介といえば、その道でも有名な風景画のカメラマンであった。



そう・・・・・・・あくまで過去形の人物なのだ。





********************


名倉良介は今から約10年前に亡くなっている。


エベレストでの撮影に出かけそのまま帰らぬ人となった。



その父・良介の死から数年後、息子の良二が父と同じカメラの世界に彗星の如く現れた。



良二は瞬く間にその名を世間に知られることになったが、表舞台に立つことは一度も無い。



作品だけが年に数度世に出るだけのカメラマンである。


父と同じ風景画をメインにやってはいるが、その作品は父良介とはまったく異質なものであるというのが周りの評価である。


名倉良二は極まれに、人物を撮影する。


だがそれも限られた人だけである。


その限られた人物の中に今回のこのミュージシャンが含まれているのだ。



私に本日課せられた使命は本日の決定事項を名倉氏に伝える事である。



それにしたも笑える・・・今日会った面々は私の事を名倉氏のマネージャーか何かと思っているだろうが、それはまったくの見当違いのことである。




笑い出しそうなのを堪えて、廊下を歩き出すと前から良く見知った顔が近寄ってくる。



「ひさしぶりー」「よぉ」



目の前の二人が私に気が付き声を掛けてきた。



「お久しぶりです」



私も負けじとニッコリ微笑むと目の前の二人に挨拶した。



今私の目の前に居る二人が、今度本日打ち合わせを行った新曲を発売するミュージシャンである。


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