お留守番 もともと防音がしっかりとされているのだ、音がうるさいと感じることは無い。 けれども部屋の空気と言うか雰囲気と言うか、凄くひっそりとしていた。 俺が目を覚ますころに真奈美がいないのはいつもの事なのに、ココロに穴の開いたような・・・。 目覚めてから必ずと言っていいほど真奈美の気配を探してしまう。そもそも真奈美が起きたり, 出かけたりしたのを知っているのに。 俺と真奈美は基本的な生活リズムが違う。 真奈美は昼型の人間で、俺が夜型の人間なのだ。仕事柄それはしょうがない事だとは分っている。 俺が帰ってくるころ真奈美は寝ていて、俺が寝ているころに真奈美は出かける。真奈美が帰るころには俺は出かけていて・・・完璧なすれ違い生活。 俺たちの会話はもっぱらダイニングテーブルに置かれるメモ用紙。 真奈美が出かける前に一言二言書いていってくれる。内容は仕事のこと、その日の予定などありふれてること。 今日のメモにはこうあった。 「お昼ころに帰るのでそれまでお留守番お願いね。真奈美」 寝起きですっきりしない頭のまま、バスルームに向かい熱いシャワーで体を起こす。 さっぱりした体でリビングに戻りコーヒーをいれた。体も神経も覚醒されていく。 特にこれといってすることが無く、流れる時間がやけにゆっくりと感じられる。適当に音楽をかけ新聞に読む。 ふっと先ほどのメモが頭を過ぎった。誰かを待つ為の留守番なんて何年ぶりだろう・・・。 実家を出てからはずっと一人暮らしをしていたから、誰かを待つことなんてかなり久しぶりだろう。 それに、留守番という言葉にあまり良いイメージが無い。”置いていかれた”という思いを強く感じる。 ただ待っているだけっていうのは、性に合わない。 待つよりなら追いかけたい。・・・・・でも知っている、追いかけても手に入らないものがあるってことを。 それでも、俺は追いかけるだろうけど・・・。 「ただいま〜」 リビングの戸を開け真奈美が入ってきた。 「ん〜〜おかえり」 新聞から僅かに目を上げる。 荷物を片付ける真奈美に声をかける。 「留守番ってなんか懐かしーかも・・・。」 「あ〜〜〜、雅人はずっと一人暮らしだったの?誰かを待ったり待って貰ったりっていう生活はなかったの?」 「無いね・・・。そんなことしたいとも思わないし・・・。」 一緒に暮らすなんて、真奈美が初めてだよ。 「そんなもんなのかね〜。私なら留守番とか楽しいと思うけど?」 「はぁ?なんで留守番が楽しいんだよ!?」 「・・・・・・え?だってさぁ、”良い子で留守番できた子”にはお土産が定番でしょ!!」 「ぶっっはっは〜〜〜お前はお子様か!!はっはっ〜〜腹いたい・・・。」 まったくこんなに笑ったのってどれくらいぶりだよ・・・。お土産って、本当にお子様。 「も〜〜そんなに笑わなくてもいいじゃない!!今日は雅人にお土産があったのに・・・。もう知らない。」 ぷいっと顔を背けた真奈美がかわいくて、キッチンに向かう。 真奈美の隣に手を付いて、顔を覗き込むように話しかける。 「悪かったって。・・・なぁ俺にお土産って??」 真奈美の髪を玩びながら真奈美の答えを待つ。 「・・・しらない。」 真奈美はそういいつつ一つの袋を手にした。その袋のロゴは見慣れたものであった。 「これ?」 「・・・・・そう。雅人のすきなべーカリーで買ってきたの。焼き立てで美味しそうだったから・・・どうせまだ何も食べてないんでしょ!?」 香ばしいパンの香りがする。真奈美はパンを並べ、サラダとスープを作っていく。 「ありがと。」 二人で囲む食卓には、香ばしいパンと暖かなスープと彩りの綺麗なサラダ・・・そして 目の前には笑顔の・・・。 こんな嬉しいお土産があるなら"お留守番"も悪くないかも・・・。 |