お揃いのマグカップ でも、コレは俺が望んだこと・・・・。 今までの俺には考えられないことの連続。 それさえも愛しい。 真奈美と暮らし始めてから自分に驚くことがある。 例えば・・・・そうこのマグカップ。 朝はまずブラックコーヒー。・・・・・何でだろうね。 コーヒーなんて大して好きな物じゃなかったけど、あの香りが寝起きの脳を刺激する。 コーヒーを飲む習慣はいつからかなのかは判らないが、今では欠かせない。 コーヒーを飲んでほっと一息・・・。これで一日が始まる。 まして、このカップになってからこの習慣はやめる気が無い。 コーヒーの注がれたこのカップは、薄グリーン色をしていて周りを英語の文字が並んでいる。 キッチンカウンターには、これと同じタイプで薄ピンクのカップがある。 ・・・・くっくっくっ・・・。自分でも可笑しいと思う。 今まで、どんな女に対しても「ペア」なんて部類のものを持つことが無かったのに・・・。 事は真奈美がここにやってきた次の日に遡る。 朝から真奈美がキッチンの食器棚の前で固まっていたのだ。 恐る恐る中を覗き込んで何かを探しているようであった。 無論、ある程度必要であるであろうものは真奈美が来る前に揃えていたのだ・・・何を探してるんだ? 不思議そうに真奈美を見ていたら、声を掛けられた。 「普通のコーヒーカップって無いの?」 ・・・・・・・・・・意味がわからない?? 一体何が言いたいんだろう?カップはもちろんあるのだ。戸棚の中に・・・しかもかなり目に付きやすいと思うんだが。 「そこにあるけど・・・。」 真奈美の隣に行き、カップを指差した。 「・・・なんていうか・・・普段使うのが・・・・。」 「ここにあるの適当に使っていいんよ」 俺がそんなことを言っても、一向に怪訝な目を向けてくる。 「どうしたんだ?気に入らない?」 よくよく考えると、俺が勝手に揃えたものだから真奈美が気に入らない可能性だってある。でも、今までの真奈美の好みからそこにあるカップが外れているとは思えないし・・・。 俺は真剣に悩んでいたのに、真奈美の答えはとても簡単だった。 「こんな、高そうなの・・・普段使う??明らかにブランドのカップセットじゃない・・・。」 「・・・・・・・・はぁ??」 確かに、真奈美の言うとおりここにあるのはアンティーク調の物であったり、ブランド物である。 男の俺には生憎とカップを集める趣味は無く貰い物である。 「壊したりしたら嫌だもん。私絶対割りそう・・・」 翌朝、真奈美がコーヒーを入れてくれた。いつもの香りが部屋に漂う。 ふと、出されたカップを見て止まった。・・・これ。 俺が顔を上げると、真奈美がへへっと笑いながら言った。 「マグカップお揃いにしちゃったけどいい?」 真奈美の手元を見ると確かに色違いで同じカップがそこにあった。 真奈美は説明してくれた。昨日あの後買い物に出かけこのカップを見つけたこと。 初めは一つだけのつもりであったが、その隣に置かれているカップをみて 俺に使って欲しいと思ったこと。そして 最後には、気に入らないのであれば使わなくとも、置くだけ置かせて欲しいと言った。 そんなことを言われたら答えは一つしかない。 「これからはこのカップを使うよ。・・・ありがとう」 俺には女とお揃いのものを持つことに興味が無い。 ましてや、カップが割れようがどうしようが興味が無い。 でも、カップが割れることにより真奈美が怪我をするのは嫌だ。 そして、お揃いのマグカップを並べ楽しそうにコーヒーを入れてくれる君が居るだけで・・・・・。 朝が嬉しくなる。 並んでいるマグカップが・・・・・俺を幸せにしている。 |