2つのハブラシ 燦燦と輝くネオン、留まることを知らない人々。 時折この町に居ることが無性に寂しくなる。 でも、今は大分マシかもしれない・・・。 人々が寝静まり、朝を迎える・・・俺が帰れるのはほぼ朝方。 この生活自体には大分慣れている。 だが、最近は仕事へ行く足取りも、仕事から帰る足取りも重い・・・。 マンションにキーを差し込みかける・・・その瞬間なんともいえない緊張が走る。 ・・・・・・・あった。 見慣れている靴がいつものようにある。 少しの安堵を覚えながら、部屋に入っていく。 キッチンに入り冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し飲み干した。 シャワーを浴びにバスルームに向かう・・・。 いつの間にやら増えている入浴剤を見ると思わず微笑んでしまう。 サッパリとした体で、洗面所に向かっているとある物が目に付いた。 「お帰りなさい!ハブラシ新しくしておきました〜マサのは青ね。」 そんなメッセージとともに、新しいハブラシが2つ置かれていた。 見慣れたその字は正しく真奈美によるものであろう・・・。 真奈美と暮らし始めてまだ数日・・・。 真奈美をあのままにしておくのは嫌でここに連れて来てしまった。 だから・・・・いつか、俺の居ない間に出て行ってしまうのではないかと不安でたまらない。 でも、このハブラシのように、少しずつ増えていく真奈美の物を見つけるとなんだか嬉しくなる。 たぶん真奈美は気がついていないだろうけど。 元々この部屋に真奈美を連れてくる前に、殆どのものを揃えておいた。 だから、真奈美が自分の意思で買ってきたこと、それがここに居る為のものであることが嬉しい。 雅人の新しいハブラシの隣に色違いのハブラシが置かれている。無論真奈美のハブラシ。 2つのハブラシを見ていると無性に嬉しくなり、真奈美に会いたくなった。 真奈美は、一つの客室を使っている。無駄なほど広いマンションな為部屋は多い。 まだ眠っている真奈美の元へ向かう・・・。 ドアを開け、そっと中に入る。この暗闇でも、どこに何があるかは熟知している為そっと真奈美に近づく。 ・・・・・朝になったら怒られるな・・・。 そう思いつつ、真奈美のベットに潜り込んだ。 スヤスヤと眠っている真奈美をそっと抱き寄せるように眠る。 この瞬間が、もっとも安心している時かもしれない。 僅かに真奈美が身じろぐが、起きる気配はない。 自分の腕の中に納まっている真奈美の髪の毛をそっと梳く。 同じシャンプーなのにね・・・。 僅かに香るその香りさえ愛しくなる。 「ハブラシありがとう・・・。・・・・・・・・・・・・・・愛してるよ」 真奈美が起きていたら、こんな台詞ガラじゃないって笑うだろうな・・・。 そうは思ったけど、今この腕の中に居るのは正しく真奈美であり、聞いてはいないであろうけれど不意に口から出た本音。 君が起きるまで後数時間・・・それまで、どうか暖かな温もりをこの腕に・・・・・・・・・・。 そして夜が明け朝になる・・・。 |